お知らせ
準備書面の作成が終わって少し時間ができたので、強制執行について書きます。
以前のコラムで、「勝訴判決を得ることが訴訟のメインの目的」と書きましたが、判決をもらったからといって直ちにどこかからお金が出てくるわけではありません。
当然ながら、国(裁判所)がお金を出してくれることもありません。お金を支払うのは被告(反訴が認容されれば原告も)です。被告の親の財産も子の財産も当てにすることはできません。
勝訴判決が確定した後のお金の回収は、まずは被告の自発的な支払に委ねられ、多くの場合は訴訟の結果を受け入れて支払ってくれます。
ただ、そうスムーズに進まないこともそれなりにあります。感情的に「絶対払いたくない」と意固地になっている場合や、そもそも支払うお金が十分でない場合です。
養育費の回収を例に取ると、支払義務者が会社員で勤続年数も長く、退職金の関係でもそう簡単に転職することはないと思われるケースでは、回収に困ることはないです。
サラリーマンや公務員であれば、給料の差押などされたくないし、信用に傷がつくことを嫌がるためです。当職の経験でも、義務者がサラリーマン等の場合に給料の差押をしたことはほとんどありません。大抵は任意に支払ってくれます。
他方、義務者が転職を繰り返したり、そもそも勤務先がわからないという場合は、かなりの難航が予想されます。
3大メガバンク+ゆうちょ銀行であれば、全国の支店から義務者の口座を照会して残高を回答してくれますが、給料の振込先口座がどこの金融機関か不明である場合には虱潰しで23条照会をかけるしかありません(しかもその23条照会1回当たり約五千円+αがかかります)。
金融機関によっては、債務名義(確定判決等のことです)のある23条照会の場合には、過去数ヶ月間の取引履歴を開示してくれて、そこから勤務先会社がわかるということもありますが、給料が現金手渡しの場合にはこの調査は奏功しません。源泉徴収者(=給与支払者)や市・都道府県民税特別徴収者が誰であるかを税務署・市区町村役所が回答してくれればいいのですが、債務名義があっても現在のところ税務署等は回答してくれません。
なお、細かい話ですが、強制執行しようとする場合、原則として義務者(債務者)の住所がわかってないといけないので、住所不明の場合にもひと苦労することになります。
以上のように、たとえ勝訴判決を得たとしても、権利実現まで苦労するということは全然珍しくはないです。
人間的にも経済的にも信用できる相手とだけ法律行為(契約や結婚や養子縁組等)を行うことで自衛するというのも一つの選択肢かも知れません。
弁護士の中核的な職務の一つとして、訴訟活動があります。
訴訟活動において弁護士が何をしているかについて、少し解説します(もしかしたら以前同じようなことを書いたかも知れませんが)
まず、言うまでもありませんが、勝訴判決(被告側なら請求棄却判決)を得ることが訴訟における原則的な目標です。「原則的な」というのは、事案によっては少々無理筋の場合になんとか和解に持ち込みたいという戦略もあり得るためです(但、あくまで例外的なものです)。
そして、その目標のために弁護士が何をするのかというと、メインは「事実」の「立証」です。
たまに誤解されている方もおられますが、法廷で相手方本人または代理人(もしくは裁判官)と口喧嘩して言い負かすのではありません。その意味で、一般の方が思われている「口が達者」というのは、弁護士の能力とは特に何も関係がないと言えるでしょう。和解の協議を詰めるにあたって、相手方を説得できる理屈を直ちに考える必要が生じる場面はありますが、それも当然、法的に納得しうる理論(理屈)に基づかないと意味がありません。
少し脇道にそれましたが、上記にいう「事実」とは真実という意味ではありません。「自分が裁判所に認めて欲しい事実」という程度に捉えてもらえば結構です。ですので、訴訟提起に至るまでの経緯を長々と書き連ねる必要もなければ、必要のない事実や相手方を利する事実をわざわざ言う必要もありません。
そして、民事訴訟には「当事者が主張しない事実を判決の基礎にしてはならない」という原理があるため、原告被告がある事実について共に勘違いをしている場合、原則として裁判所は間違いを正さないというのが建前です(現実にはかなり口出ししますが…)。
例えば、ある出来事が起こった日付につき原告被告双方が勘違いをしているが証拠上は正しい日付が顕れているという場合であっても、裁判所としては双方が勘違いしているその日付で事実認定をせざるを得ないということです。そのような意味で、民事訴訟においては、真実を追究するという機能や目的は後退するわけです。
また、請求を認めてもらうためにはどのような事実を立証すべきかということは法律上決まっています。そのため、法律上必要ではない事実についていくら立証しても、結論には何の影響もないばかりか、訴訟解決まで無駄に時間を要することになりかねません。訴訟の中で、「相手方がこんな酷いことを言ってきたから、こちらも倍にして言い返したい!」という気になるのはもっともですが、法律上の関連性がない限りそのような主張はやめておいた方が賢明です。
何を主張して、何を主張すべきでないかという判断(舵取り)をするのも、弁護士の重要な役割の一つです。
次に立証の話ですが、これは世間で思われているよりもそのハードルは高いと考えていただいた方がよいです。
ざっくり言えば、「誰もがその事実が存在したと確信できるだけの証拠」が必要です。「そういう事実があったかも知れない」という程度では全然足りません。
たとえ依頼者の記憶にある「真実」が確信に満ちたものであっても、それを支える証拠がないと、残念ながら裁判所を納得させることはできません。
逆の立場から見たら、被告は勝訴判決によって自分の財産を差押・強制執行され得るのですから、上記のような高いハードルはむしろ当然のことと言えるでしょう。
なお、手持ちの証拠だけでは必ずしも十分ではないものの、裁判所を通じてしかるべきところから文書等を出してもらえば立証が可能、という場合もあるため、証拠がないからといって最初から諦める必要もありません。弁護士が代理人として任意に文書提出をお願いしても出してもらえないが、裁判所からの要請だと結構すんなり出してくれる、という場合は少なくありません。もちろん、各官庁や会社等によって保管期限があるでしょうから、なるべく早く動いた方がいいのはもちろんです。
以上、タイトルとの関連性が薄い雑多な内容を書きましたが、時間があれば強制執行(権利の実現)について書きたいと思います。
11月30日(金)は、出張のため午後0時~午後6時の法律相談をお休み致します。
午後6時以降で法律相談をご希望の方は、お電話又はメールにてお問い合わせ下さい。
11月22日(木)は、出張のため午後は休業致します。
午前の法律相談は、9時~または11時~が空いていますので、ご希望の方はお問い合わせ下さい。
23日(金・祝)及び24日(土)は、終日休業致します。ご了承下さい。
最近相談を受ける中で感じたことを少し書きたいと思います。
タイトルの通り、我々弁護士は、依頼者の希望を「法律で」実現することを主たる職務内容としています。
典型的には訴訟や執行などのいわゆる「裁判」といわれるものがこれに当たります。
世の中のあらゆる法律上の紛争は、最終的に裁判所のみが解決する権限を有しています。市役所でも法務局でもありません。
そして、裁判官は法律と事実のみに基づいて判断をします。多少の人情味を垣間見せることはありますが、あくまで法律が与えた裁量の範囲内のことであり、その意味では厳然と法律に縛られているわけです。
このうち、後者の「事実」とは何かについて語ると話が長くなってしまうので、前者の法律について少しお話します。
法律によって依頼者の希望を叶えるという場合、当然ながら法律に規定されているメニューしか実現はできません。
・金銭の給付を受ける・動産を引き渡してもらう・登記名義を変えてもらう・離婚してもらう・親権者を決めてもらう・不動産を明け渡してもらう・債務がないことを確認してもらう・労働者としての地位を認めてもらう・所有権を確認してもらう・財産管理人を選任してもらう・・・等々、いろいろと法律に書いてあります。
弁護士としては、これらの方法によって裁判所が依頼者の希望を叶えてくれるように活動をするわけです。
裁判以前の交渉やADRの段階であっても、こじれたら最終的には裁判により実現するほかないため、上記のメニューを念頭に置いて活動します。
ところが、ご相談を聞くうちに、どうやら相談者の希望は法律では叶えられそうにない、とわかることがたまにあります。
その場合、残念ながら弁護士としては、丁寧に説明をしたうえでお引き取りいただくほかありません。
①例えば、これまで色々とひどい対応をしてきた相手方に対して、直接の謝罪を求めたいという場合、これを直ちに受任することはできません。
名誉毀損の事案であれば、名誉回復のための措置を法律上請求することはできますが、そうでない場合、法律は相手方に謝罪をさせるというメニューを用意していないのです。
もちろん、金銭問題を含む交渉の中で謝罪を引き出すことは戦略としてあり得ますが、相手方が拒否する場合に謝罪を強制する手段はありません。
②また、それと似たような状況で、「相手方を刑事で訴えたい」という希望もまれに聞きます。
法律上の問題が大きく民事(行政含む)と刑事に分かれることは誰もが知るところですが、刑事事件についてどのように手続が進むかについては、一般にはそこまで詳しく知られていないと思います。
誤解を恐れずに言えば、刑事事件としてどのように処理するかは全て警察・検察の捜査機関が決めることで、被害者や告発人等の関係者の意向は参考に過ぎない、ということです。
「嘘をついたから詐欺だ」「嘘を書いてたから文書偽造だ」「ひどいことを言われたから名誉毀損だ」と告発したいお気持ちは察しますが、警察・検察には刑事処分につきある程度の内部的基準があり、それに該当しない限りは送検・起訴という処分はされません。証拠がなければ尚更です。
もちろん、告訴状・告発状の作成を依頼されれば応じることは可能ですが、上記の通り処分権限は全て捜査機関にあり、(検察審査会を除いて)それに異議を述べる制度はありません。
③そのほか、「親と縁を切りたい」、逆に「子供を勘当したい」や、「次男には絶対に相続させたくない」という、家族関係の相談事も多いですが、左記はいずれもストレートには実現できません。夫婦関係は切れますが、親子関係や兄弟姉妹関係を切ることはできません(特別養子縁組を除いて)。法律がそのようなメニューを用意してないからです。
また、推定相続人に遺留分を放棄してもらうことは可能ですが、放棄してくれるかどうかは推定相続人次第です。
④余談ですが、「方法は何でもいいからとにかく相手方を懲らしめたい」という希望にはもちろんお応えできません。
弁護士はあくまで法律上正当な利益を実現するために強力な権限と法律事務の独占を許されており、社会的正義に反する要請には応じられないのです。
他にも枚挙に暇がありませんが、法律では実現できない希望は少なくないです。というより、世の中の争いごとのうち、法律で解決できる問題というのはほんのわずかかも知れません。そのあたりをご理解いただけると弁護士としては助かるところです。
少し愚痴混じりの長文になってしまいましたが、次に機会があれば、「事実」とは何かについて書こうと思います。