お知らせ
当事務所では家事事件(離婚、相続、後見、親子関係など、家庭に関する事件)を扱うことが多く、それなりに実績と経験の蓄積があるため、今後コラムにて少しずつ解説をしていこうと思います。
今回のテーマは、離婚に関する紛争のうち最もテクニカルなものの一つである財産分与です。
年金分割も財産分与に劣らずテクニカルな問題ですが、ほとんどの裁判官は按分割合を機械的に0.5と定めてしまうため、実質的に争点となることはほとんどありません。
なお、話を簡単にするため、以下では本来的な財産分与(夫婦共有財産の清算)に話を絞って書きます。
財産分与というと、配偶者の持っている財産の半分をもらうことができる権利、という捉え方をされている方もいると思います。
このうち、「半分」というところは概ね正しいのですが、何の半分なのかというところはあまり一般には知られていません。
ざっくり言えば、「①婚姻日から別居日(又は離婚日)までに、②増えた、③夫婦いずれかが実質的に所有する、④共有財産(夫婦で協力して得た財産)」が対象です。
①について言えば、結婚期間が短ければ通常は分与対象財産は少なく、長ければ多くなる傾向にあります。そのため、配偶者に多くの資産があっても、婚姻期間が1年未満程度であれば、分与財産はそれほど多くないと思われます。
②については、増加した分のみを分与することになるため、逆に婚姻日よりも減っている場合は、そもそも分与すべき財産はありません。複数の子供を私立大学に通わせて一人暮らしをさせたような場合は、このパターンであることも珍しくはありません。
また、夫婦のどちらかが婚姻中に負った借金はどうなるのか(半分負担しなければならないのか)という質問もたまに受けます。これについては、他方の配偶者が借金の半分を負担するということはありません。ただ、それが生活のためにやむを得ず負った借金である場合は、養育費の金額算定において多少考慮されることがあります。
その借金の保証人になっている場合は、残念ながら、離婚したとしても、他の保証人を立てる等して債権者の同意を得ない限りは保証から抜けることはできません。
③について、子供名義の預貯金がある場合などに多少問題となります。子供が自分で預貯金を管理していたり、預貯金の中身がお年玉である場合などは、子供のものと認定されるでしょうが、それ以外は実質的には管理者もお金の出所も親であるため、実質的には親の預貯金として考えることになります。
会社を経営している場合、会社は法人として別人格であるため、会社の財産を財産分与の対象とすることは基本的にはできません(全く無理ではありませんが、かなり例外的な事案に限られます)。
④が最も争われる要件です。
ここでいう共有とは、一般的にいうところの共有とはかなり意味が異なります。その財産の名義が夫婦のどちらか一方であっても、共有となります。
典型的な財産である預貯金や自動車、生命保険、金融商品については、どちらか一方の名義単独です。不動産については、共有持分を設定していることもあるでしょうが、どちらかの単独所有名義であっても、ここでいう共有財産になり得ます。
例えば会社員の世帯だと、毎月の給料から支出を引いた残りが貯まっていき、または株式や車など他の財産に形を変え、あるいは住宅ローンに充てられて債務が減っていくでしょう。
働いている本人からすれば、「自分の給料であり、時分の財産」という感覚があるでしょうが、財産分与の場面では、「夫婦2人で協力して稼いだ給料」と考えるのが通常であり、離婚に伴って清算する必要があります。なお、上記①で離婚日に先立って別居日も基準日として掲げたのは、通常は別居した後は「夫婦が協力して生活する(財産を築く)」という前提がなくなるからです。別居日以降に財産が増えても減っても、その増減分は考慮しません。
また、いわゆる特有財産は共有財産ではありません。典型的には、親から贈与を受けたり相続した財産や、婚姻前から保有していた財産です。これらは、夫婦で協力して生活しなくても得られた(保有できた)財産だからです。
かなり大雑把な説明ですが(詳細に説明しようと思ったら薄い本1冊書けます)、以上が財産分与の対象となる財産です。現在離婚協議中だという方は、少し参考にしてみて下さい。
個人的な意見としては、ほとんど一律に分与割合を2分の1にすることにはかなり疑問があります。共働き世帯で夫婦の収入も生活費の負担も同程度であり、夫は仕事をするのみで妻は仕事に加えて家事と育児も全部やっているという場合、夫名義の財産が増えることについては妻の貢献が大きい反面、妻名義の財産形成について夫の貢献はほとんどないのではないかと思われるためです。
このような事案については妻の取り分を多くすべきですが、裁判所の運用としては2分の1という割合を変更することは稀で、年金分割と同様に機械的に処理されている印象があります。個々の事案の特性に踏み込んで妥当な解決をしてもらいたいところですが、裁判所の対応はなかなか渋いものです(養育費とかの場面でも同様ですが)。
10月9日(火)は、終日裁判期日で埋まっているため、法律相談のご予約は午後5時以降の時間帯となります。
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だいぶ前の話ですが、訴訟事件の男性依頼者から「向こうは弁護士が5人付くみたいですが、大丈夫でしょうか?」と言われたことを思い出しました。
それに関連して、一般の方には分かりづらい、弁護士が裁判で何を行っているのかについて少し書いてみます。
まず、代理人弁護士の人数自体は訴訟の勝敗に影響を与えないということは、言い切っていいものと思います。
法律家以外の方からすれば、自分が依頼した弁護士は1人で戦っていて、相手方には弁護士が5人も10人も名を連ねているとなると、果たして大丈夫だろうかという不安が生じるのは至極当然と言えば当然かも知れません。法廷に同行した依頼者が直接に相手方代理人の多さを目にすることもあれば、書面上の職印の数に驚くこともあるでしょう。
しかし、まず、勝敗を決める裁判官は、代理人弁護士の人数自体には関心を持ちません(代理人が誰であるか,という点には多少関心を寄せるでしょう。どの事件でも筋の良い主張をしてくる弁護士と残念ながらそうでない弁護士とでは裁判官に与える印象に差異が生じるのは自然なことです)。
また、書面に名を連ねている弁護士のうち、実質的に事件を担当している弁護士は2~3人であることが多いです。これは、10人の弁護士全員がその事件に関わって分担するよりも、数人に絞って事件処理させる方が遥かに効率が良いからです。地裁の合議事件が3人の裁判官で構成されるのも、事件処理するのに最も効率が良い人数だからという理由も恐らくあるでしょう。裁判官の人数は非常に少ないので、それ以上合議の人数を増やしても労働効率が上がるとは思えません。
そして、これが一番重要なことですが、弁護士は法廷で口喧嘩をしているわけではないということです。声が大きい、威圧感がある、眼光が鋭い、ベテランである、裁判官と旧知の仲である、相手方弁護士は自分の弁護士よりも年上だ(期が上だ)、大手の事務所に所属している、などといった点はすべて意味を持ちません。乱暴な言い方をすれば、勝敗を決するのは徹頭徹尾、事実のみです(事実と真実の違いについては後日)。そして、その事実は、書面により主張し証拠により立証します。口頭で相手を言い負かすのではありません。
どんなに複雑に見える事件でも、弁護士と裁判官が行っているのは、「法律の要件に事実を当てはめて結論を出す」というシンプルな作業です。法律は裁判官が知っています。あとは当事者が客観的事実を主張し立証しないといけません。そのような意味で、勝敗を決するのは事実のみ、ということになるのです。客観的事実で圧倒できれば、相手方弁護士の人数が多かろうが勝敗に影響がないことはお分かりいただけると思います。三人寄れば文殊の知恵とは言いますが、いくら知恵を絞っても、遡って事実を作り出すことはできません。
以上、長文になりましたが、要するに、代理人弁護士の多寡で心配することはないということです。
蛇足ですが、有利な客観的事実が存在し証拠が揃っていても、それを上手く使って裁判官へ伝えることはできなければ、弁護士が代理する意味がありません。良い食材があってもそれを活かす腕がないと旨い料理が作れないのと一緒です。その「腕」の一つの要素が書面の読みやすさであり、5W1Hを駆使して(理想を言えば)一点の疑義も残さないような文章を書く必要があります。文章の読みやすさというのも、弁護士選びの一つの指標にすると良いかもしれません。
なお、余談ですが、事件の種類によっては必然的にある程度の人数が要求されることもあります。
例えば医療過誤事件では、証拠保全と医療記録・医学文献の精査が事件の帰趨を左右しますが、これらは物理的にある程度の人数で手分けをしないと十分な調査はできません。10年前に出された本を1冊読んで分かった気になっているようでは、間違いなく落とし穴に落ちます。「10年ひと昔」とはよく言いますが、医学の常識は10年どころではなく時には数年で変わってしまうこともあります。
医療関係訴訟とは言っても、C型肝炎訴訟のようなある種定型的な事件であれば弁護士1人でも対応可能ですが、本格的な医療過誤訴訟は、新規事件を一時的に受任停止にでもしない限り1人では対応できません。そのため、現在のところ当事務所では医療過誤訴訟を取り扱わないことにしております。
(また、特許関係と税務争訟も取り扱っておりません。これらは単に専門外という理由です。なお、特許以外の知的財産事件(意匠権、商標権、著作権)は対応可能です)