お知らせ
だいぶ前の話ですが、訴訟事件の男性依頼者から「向こうは弁護士が5人付くみたいですが、大丈夫でしょうか?」と言われたことを思い出しました。
それに関連して、一般の方には分かりづらい、弁護士が裁判で何を行っているのかについて少し書いてみます。
まず、代理人弁護士の人数自体は訴訟の勝敗に影響を与えないということは、言い切っていいものと思います。
法律家以外の方からすれば、自分が依頼した弁護士は1人で戦っていて、相手方には弁護士が5人も10人も名を連ねているとなると、果たして大丈夫だろうかという不安が生じるのは至極当然と言えば当然かも知れません。法廷に同行した依頼者が直接に相手方代理人の多さを目にすることもあれば、書面上の職印の数に驚くこともあるでしょう。
しかし、まず、勝敗を決める裁判官は、代理人弁護士の人数自体には関心を持ちません(代理人が誰であるか,という点には多少関心を寄せるでしょう。どの事件でも筋の良い主張をしてくる弁護士と残念ながらそうでない弁護士とでは裁判官に与える印象に差異が生じるのは自然なことです)。
また、書面に名を連ねている弁護士のうち、実質的に事件を担当している弁護士は2~3人であることが多いです。これは、10人の弁護士全員がその事件に関わって分担するよりも、数人に絞って事件処理させる方が遥かに効率が良いからです。地裁の合議事件が3人の裁判官で構成されるのも、事件処理するのに最も効率が良い人数だからという理由も恐らくあるでしょう。裁判官の人数は非常に少ないので、それ以上合議の人数を増やしても労働効率が上がるとは思えません。
そして、これが一番重要なことですが、弁護士は法廷で口喧嘩をしているわけではないということです。声が大きい、威圧感がある、眼光が鋭い、ベテランである、裁判官と旧知の仲である、相手方弁護士は自分の弁護士よりも年上だ(期が上だ)、大手の事務所に所属している、などといった点はすべて意味を持ちません。乱暴な言い方をすれば、勝敗を決するのは徹頭徹尾、事実のみです(事実と真実の違いについては後日)。そして、その事実は、書面により主張し証拠により立証します。口頭で相手を言い負かすのではありません。
どんなに複雑に見える事件でも、弁護士と裁判官が行っているのは、「法律の要件に事実を当てはめて結論を出す」というシンプルな作業です。法律は裁判官が知っています。あとは当事者が客観的事実を主張し立証しないといけません。そのような意味で、勝敗を決するのは事実のみ、ということになるのです。客観的事実で圧倒できれば、相手方弁護士の人数が多かろうが勝敗に影響がないことはお分かりいただけると思います。三人寄れば文殊の知恵とは言いますが、いくら知恵を絞っても、遡って事実を作り出すことはできません。
以上、長文になりましたが、要するに、代理人弁護士の多寡で心配することはないということです。
蛇足ですが、有利な客観的事実が存在し証拠が揃っていても、それを上手く使って裁判官へ伝えることはできなければ、弁護士が代理する意味がありません。良い食材があってもそれを活かす腕がないと旨い料理が作れないのと一緒です。その「腕」の一つの要素が書面の読みやすさであり、5W1Hを駆使して(理想を言えば)一点の疑義も残さないような文章を書く必要があります。文章の読みやすさというのも、弁護士選びの一つの指標にすると良いかもしれません。
なお、余談ですが、事件の種類によっては必然的にある程度の人数が要求されることもあります。
例えば医療過誤事件では、証拠保全と医療記録・医学文献の精査が事件の帰趨を左右しますが、これらは物理的にある程度の人数で手分けをしないと十分な調査はできません。10年前に出された本を1冊読んで分かった気になっているようでは、間違いなく落とし穴に落ちます。「10年ひと昔」とはよく言いますが、医学の常識は10年どころではなく時には数年で変わってしまうこともあります。
医療関係訴訟とは言っても、C型肝炎訴訟のようなある種定型的な事件であれば弁護士1人でも対応可能ですが、本格的な医療過誤訴訟は、新規事件を一時的に受任停止にでもしない限り1人では対応できません。そのため、現在のところ当事務所では医療過誤訴訟を取り扱わないことにしております。
(また、特許関係と税務争訟も取り扱っておりません。これらは単に専門外という理由です。なお、特許以外の知的財産事件(意匠権、商標権、著作権)は対応可能です)