お知らせ
最近、闇営業と反社会的勢力との関係が取り沙汰される中で、本筋とは関係ない話ですが、思ったことを書き留めます。
(読んでも特段面白くはありません)
よく吉本所属の芸人さんが「俺らと吉本の間に契約はない。契約書なんか作ってないから。」というのを耳にします。
ただ、本当に「契約がない」のかと問われると、弁護士を含む多くの法律家は「必ずしもそうではない。」と答えるでしょう。
もちろん、日本の法律上は、という限定付きであって、外国法では異なる場合もあります。
契約という概念は、大雑把に言い換えると、「権利変動を目的とした意思表示の合致」です。
「これを○○円で売りたい」という意思と「それを○○円で買いたい」という意思が合致し、表示されたことが、すなわち契約の成立です。
意思の表示は、口頭であるか書面によるか、あるいは黙示であるかを問いません。
これにより、売主は物を引き渡す義務が、買主は代金を支払う義務が、それぞれ発生します(権利変動)。
ここにおいて、契約「書」の作成は何ら契約の成立要件とはなっていません。
もちろん、契約の種類によっては書面の作成が成立要件となっているものもありますが、ほとんどの種類の契約はそうではありません。
吉本と芸人さんの間の契約が労働契約なのか、準委任契約なのか、請負契約なのか、業務委託契約なのかは不明ですが、いずれの契約においても契約書の作成は成立要件とはなっていません。
(ただ、例えば労働契約については、「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。(労働契約法6条)」とされているものの、「労働者及び使用者は、労働契約の内容(括弧内省略)について、できる限り書面により確認するものとする。(同法4条2項)」とされており、書面作成が望ましいことは間違いありません。)
そのため、「契約書がない」ことがすなわち「契約がない」ことを意味しない、という結論になるのです。
ちなみに(もしかしたら以前同じ事を書いたかも知れませんが)、たまに相談の際に質問される事項で、「この契約書は有効ですか?」というのがあります。
しかし、法律家としては、契約「書」が有効か否かではなくて、「契約」自体が有効か否かを考えます。
それは、契約書はあくまで契約内容を証する書面であって、契約の有効要件ではないためです。
契約の内容である意思表示に何らかの瑕疵があるか、そもそも意思表示自体なかったのか、あるいは後発的な解除事由があるか、などを検討して、契約(または解除)の有効無効を判断するのが、法律家の思考です。
なお、契約書とは異なりますが、遺言はそのひと単独での意思表示であって、独立した法律行為ですが、遺言「書」には厳格な有効要件があります。
最近の法改正で若干緩和されたものの、依然として民法(及び最高裁)は遺言書の成立要件について厳格です。
遺言については、また日を改めて書きます。
抱えていた若干困難な事件がようやく成功裡に終了し、少し余裕が生じたので、久しぶりにコラムを書きます。
とはいえ、大した内容ではありません。
弁護士が普段どのような仕事をやっているかというと、当たり前ですが弁護士によってそれぞれです。
依頼者の多くが企業・事業主である事務所の場合と、依頼者の多くが個人である事務所の場合では、受任事件も事務内容も大きく異なります。
当事務所はどちらかというと後者です。
まず、当然ながら、受任事件の全てが訴訟・調停案件ではないため、ずっと裁判所にいるわけではありません。
日によっては1日に2,3事件の期日が重なって一日中裁判所にいることもありますが、そんな日は月1回くらいです。
ではそれ以外の時間に何をしているかというと、多くの弁護士は事務所でひたすら書面を作成しています。
電話対応や依頼者との打合せや新規相談等が入ればそれに対応しますが、それ以外の時間は書面作成に充てることがほとんどだと思います。
というのも、比較的若手の私ですら、常に訴訟・調停を十数件~20件程度は抱えており、毎週書面の提出期限が来ます。幸い私は書面作成が全く苦ではないため、提出期限は基本的に遵守しています。
それ以外の例えば破産等の債務整理事件も、すべて代理人である弁護士が書類を作成して裁判所に提出します。
ほかに、交通事故などの示談交渉事件においても、基本的には書面と証拠により相手方(またはその代理人)を説得します。
そのため、ひとつ提出したらまた次の書面に取りかかって、ということの繰り返しになります。
たまに、弁護士は口喧嘩で相手を言い負かす仕事だと思われている方もいます。そのような場面もないとは言いませんが、実際はかなり少ないです。
基本的に、事実と法的主張(書面)と証拠に基づいて依頼者の法律上の権利を実現するのが弁護士の仕事だからです。
ただ、口頭で説得することが有効な場面も確かにあります。
過去に処理した事件で、反社会的勢力との繋がりが疑われる相手方に対して、面会を申し入れて今後依頼者に接触しないように誓約を取り付けたケースがあります。
このような事案は、書面を送付しても無視することが明らかで、埒が明かないだろうと予想されるため、直接の説得も一つの有効な手段となり得ます。
(もちろん、時と場所と同席者を慎重に設定する必要があり、説得が奏効しなければ裁判所の仮処分等を用いて対抗するほかありませんが・・・)
とはいえ、弁護士が”書面で勝負する”仕事であることには変わりはありません。
口は達者でも、書面を読むと”??”と感じてしまうようであれば、実力的に若干の不安を感じざるを得ません。
主張内容自体は大上段に構えて威勢が良いけども客観的な裏付けがほとんどない、という書面も裁判所の印象はいまひとつでしょう。
当事者本人の陳述書(言い分を書いて署名押印した書面)と当事者尋問のみで事実認定がされることはほとんどないからです。
余談ですが、ご自身が依頼した弁護士に「先生が提出した書面のコピーをいただけませんか」と頼んでみて、拒否するようであれば要注意です。
依頼者には言いづらいなにかがあると疑われるからです。
(なお、本当に余談ですが、ある受任事件で別の士業の委任契約書を見た際、依頼者へ報告書等を送る度に結構な料金が発生する条項があるのを見て仰天したことがあります。私にはそんな発想は全くなかったからです。)
逆に、見た目や話し方は穏やかでも、しっかりとした書面を書き、依頼者にもわかりやすく説明できる弁護士であれば、心配は要らないでしょう
それと、依頼者の主張の弱い点についてもズバッと的確に指摘する弁護士も、信頼して良いと思います。
依頼者の言い分を何のフィルターにも通さずにそのまま書き連ねたように思える書面もたまに見ますが、良い結果につながることは多くないでしょう。
そのほか、本来の業務以外に、委員会活動などの公益活動も行うのが弁護士業の特色ですが、機会があれば公益活動についても書く予定です。